君たちは三度裏切られた、次は容赦してはならない

【ユーラシアシェルター】

 地球温暖化による海面上昇はもうずっと前から議論されていた環境問題の一つだった。

 科学者の嘘だと笑われていた説が現実となり、人類が慌て始めた時にはもういくつかの島国は消えてしまっていて、対策としてユーラシアシェルターと呼ばれるプロジェクトが完成したのは更に陸地の半分を失った頃である。沈みゆく文明は捨てられ、人々はシェルターに避難し、世界は一つになったと言う。

 ……しかしそれは、避難が出来た者の歴史であって、出来なかった者の歴史ではない。

 決して沈没の中に捨て置かれて不必要の烙印を押された者の歴史ではない。

 ユーラシアシェルターが今どうなっているのか誰も知らないし、知ろうとも思わないし、ただ誰もが心から嫌っている。あの場所は避難民族の世界である。

【ジオフロント・ハデス】

 シェルターに避難できたのは人類の30%ではないかと言われている。残りの人類はシェルターに入ることが出来ず、水没に怯えながら都市に捨てられたようなもので、彼らは今まで培ってきた技術を使えるだけ使い水平線の下に地層型都市を作ることに決めた。

 その中でも最も巨大を誇ったのが、アメリカ大陸の下に完成したハデスだった。第七階層までを機能させ、ハイテクノロジーで住みやすいと評判だったこの都市に、多くの人々が身を寄せた。

 民衆のほとんどがトラウマを抱えた手負いの獣だったことは、誰も予測していなかっただろう。それほど全員が追い込まれていたのだから。能力のある者は資産を独占し、不器用な者は貧困で荒み、隣人にいつ足元を掬われるかに脅え、隙有らば仲間を裏切って一瞬の安寧を求める。人々は疑心暗鬼に囚われ、30年に及ぶ大抗争がついに始まった。

【ローズブレイド家】

 ローズブレイドを名乗る集団が現れたのは大抗争の終盤だった。常に柔和な態度と豊富な資金で、最初こそ妬みから警戒されていたが、献身的な医術と傷に寄り添うカウンセリングでたちまち信頼を得てトップに君臨することとなった。

 ところが平穏も束の間、僅か3年ほどで人間市場や悪徳業者との繋がりや、麻薬流通の元締め、洗脳、人体実験、の噂が流れ始め、ついに現場を取り押さえられた。人々は謝罪と改心を要求するを求めるデモを起こすが、これに対してローズブレイド家は悪意ある表明とデモ隊の大虐殺、そして第二階層の壊滅を以て返答。彼らがどうしようもなく利己的で、目的の為に手段を択ばず、腹の内を隠すのが巧かったことを、誰もが知った。

 民衆はこの日、沈黙を選んだ。あんな奴らを支持したことを後悔しながら、無力感に苛まれ、死に際が苦しくないことだけを祈った。

【革命児】

 ……ただ俯いただけで噺が終わるなんて、そんなつまらないことはないじゃないか。当然ながら、沈黙を選ばなかった者たちがいた。

 彼らは自らを革命児と名乗り、ローズブレイド家の痛手になりそうなことならなんでも引き受けた。反勢力的なその活動からギャングと称され、大勢が独裁者の策略で命を散らしていったが、徐々に優秀なチームが頭角を現し始めると爆発的に勢いを増し、第三階層を牛耳るようになった。

 今やギャングはローズブレイド家に対抗できるジョーカーである。顰蹙を買うこともあるが、賛同者は随分増えた。頭数は多いほうが助かるし、誰が頂点に立つかなんてまだまだわからない。

 そう、君だって腹を括れば革命児になれるさ、と言う話。